前の話 >>メルカゾールの副作用対策にウルソ?
甲状腺機能亢進症の闘病中のトラちゃん。
治療のためにメルカゾールを投与したところ、食欲不振の副作用が出てしまいました。
そんな中、「甲状腺機能亢進症治療のための手術」という新しい選択肢について知りました。
日本ではまだ情報が少ない”甲状腺摘出術”についてはアメリカのガイドライン「2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism」が参考になりました
驚くべきは、アメリカでは手術の方が薬よりも優先順位が高いということです。
手術のメリット・デメリットを考えるにあたり、ガイドラインから甲状腺摘出術についての解説箇所を抜粋いたしました。
※このガイドラインについては、”猫の甲状腺機能亢進症ガイドラインについて”で詳しくご紹介しております。
甲状腺摘出術についてガイドラインから抜粋
甲状腺摘出術(手術)とは
- 甲状腺切除術は確立された外科的手法であり、治癒する可能性がある。
- 手術や麻酔には、重大な罹患・死亡のリスクがある。
- 甲状腺切除術には低カルシウム血症のリスクがあるが、副甲状腺を保存した片側または両側の甲状腺切除術を受けた猫では、低カルシウム血症は軽度で一過性であり、治療を必要としない場合がある。
- 副甲状腺機能低下症に伴う重度の低カルシウム血症は、一過性(数日、数週間、数ヶ月続く)または永久的な場合がある。
- 両側甲状腺切除術はホルモン補充を必要とする臨床的な甲状腺機能低下症になることがある。
- 片側甲状腺切除術は一過性の甲状腺機能低下症を伴うが、残った甲状腺組織が機能を回復するにつれて1~3ヶ月で治る。
- 甲状腺摘出術の他の合併症には、ホルネル症候群、喉頭神経麻痺、甲状腺機能亢進症の再発がある。
- 甲状腺の異常組織を取りきれなかった場合、再手術が必要になる。
期待される効果
- 外科的甲状腺切除術は短期的にも長期的にも成功率が高く、ほとんどの研究で90%以上の猫が術後に甲状腺機能回復を達成する。
- 3年以内の再発率は5%程度である。
このように、手術について書かれています。
この中から、私が注目したメリットとデメリットをまとめました。
甲状腺摘出術のメリット・デメリット
メリット
- 甲状腺機能亢進症が治癒する可能性があり、治癒後は服薬等の治療が必要ない。
- 外科的甲状腺切除術は成功率が高い。
甲状腺機能亢進症の治療を薬で行う場合は、一生の間薬を飲み続けなければなりません。
しかし、メルカゾールが体質に合わないトラちゃんが服薬を続けるのは現実的でなく、完治することでメルカゾールときっぱりお別れしたいです。
デメリット
- 麻酔や手術特有のリスクがある。
- 甲状腺は左右に1個ずつある。その両方の甲状腺を切除してしまうことによって、甲状腺ホルモンが不足する”甲状腺機能低下症”になってしまう可能性がある。(しかし、甲状腺機能低下症は治療可能)
- 甲状腺のすぐ近くにある副甲状腺を一緒に切除してしまうと、低カルシウム血症を起こす可能性がある。(しかし、低カルシウム血症は治療可能)
- 手術で異常な甲状腺を除去しきれなかった場合、再発の可能性がある。
手術には、獣医師のミスによる医療事故や、そもそも麻酔が体質に合わないことによる死亡の可能性があります。
けれども、ガイドラインに”外科的甲状腺切除術の成功率は高い”とあるし、先日話した獣医師も「難しい手術ではない」と言っていました。
甲状腺摘出経験のある腕のいい獣医師に手術をお願いできるとしたら、手術の成功率は高いと考えてよさそうです。
手術後の甲状腺機能低下症や低カルシウム血症の可能性はありますが、これも獣医師の手術スキルが大きく関わってきます。
甲状腺機能低下症は、甲状腺機能亢進症の逆バージョン。
甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまうことだよ。
低カルシウム血症は血中のカルシウム濃度が低くなってしまうこと。
血中カルシウムは心臓や筋肉、脳など様々な臓器に関わっているので、低下するといろんな困りごとが・・・。
しかし、ありがたいことに甲状腺機能低下症や低カルシウム血症は、薬を飲ませることで治療が可能のため、起こってしまった後の対処が可能です。
トラちゃんを見てくださった獣医師いわく「薬でホルモン量を減らすより、増やす方がよっぽど簡単」とのこと。
たしかに、ホルモンを出しすぎているのを薬で抑える場合は、ホルモンを出しすぎている臓器の気分しだいでホルモン量や薬の効き具合は変わるため、薬のコントロールは大変です。
一方で、ホルモンが不足してしまっている場合は、足りない量だけを補えばよいので、薬のコントロールはもっとシンプルだと感じました。
トラちゃんにとっての最適な治療法は?
手術が成功した場合は服薬治療を止められるというのが、大きな魅力です。
副作用にびくびくしながらメルカゾール服薬を続けるのは、トラちゃんだけでなく人間にとっても負担が大きいです。
一方で、手術特有のリスクは忘れてはなりません。
多くの獣医師は動物に麻酔をかけることに非常に神経質です。
それだけ、麻酔は危険であるということです。
また、甲状腺機能低下症や低カルシウム血症のリスクもあります。
どちらも起こってほしくないですが、いずれにせよ投薬治療の方法が確立されているため、もし甲状腺機能低下症や低カルシウム血症になってしまった場合は、対策の打ちようがあります。
結局は、「手術が成功すれば、トラちゃんも人間も楽になれる。手術が失敗した時に、人間が立ち直れるか否か」という問題でした。
何度も考え、家族でも話し合いを行いました。
私は、何度人生を繰り返したとても、同じ結論に至ると考えました。
そのことを両親と話し、手術を受ける方向で進めることにしました。
次の話 >>近日中に公開
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