「猫の甲状腺機能亢進症の管理のためのガイドライン」の要約(続き)
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猫の甲状腺機能亢進症の概要、原因、診断、治療(放射性ヨウ素治療、薬物療法の副作用・期待される効果)などについては、猫の甲状腺機能亢進症ガイドラインの要約_1 をお読みください
治療(続き)
甲状腺摘出術(手術)
甲状腺摘出術(手術)とは
- 甲状腺切除術は確立された外科的手法であり、治癒する可能性がある。
- 手術や麻酔には、重大な罹患・死亡のリスクがある。
- 手術には、術前の患者の安定と術者の専門知識が重要になる。
- 甲状腺切除術には低カルシウム血症のリスクがあるが、副甲状腺を保存した片側または両側の甲状腺切除術を受けた猫では、低カルシウム血症は軽度で一過性であり、治療を必要としない場合がある。
- 副甲状腺機能低下症に伴う重度の低カルシウム血症は、一過性(数日、数週間、数ヶ月続く)または永久的な場合がある。
- 両側甲状腺切除術はホルモン補充を必要とする臨床的な甲状腺機能低下症になることがある。
- 片側甲状腺切除術は一過性の甲状腺機能低下症を伴うが、残った甲状腺組織が機能を回復するにつれて1~3ヶ月で治る。
- 甲状腺摘出術の他の合併症には、ホルネル症候群、喉頭神経麻痺、甲状腺機能亢進症の再発がある。
- 甲状腺の異常組織を取りきれなかった場合、再手術が必要になる。
期待される効果
- 外科的甲状腺切除術は短期的にも長期的にも成功率が高く、ほとんどの研究で90%以上の猫が術後に甲状腺機能回復を達成する。
- 3年以内の再発率は5%程度である。
食事療法
食事療法とは
- 下記の2項より、ヨウ素の摂取制限が甲状腺ホルモン産生を制御しうるという仮説が作られた。
- 十分な量の食事性ヨウ素が甲状腺に取り込まれることで甲状腺ホルモンが生成される。
- 摂取したヨウ素は甲状腺ホルモンの合成にのみ使用される。
- 現在、猫の甲状腺機能亢進症の管理には、乾物ベースで0.2ppm(mg/kg)のヨウ素を含むヨウ素制限食(Hill’s Prescription diet y/d Feline; Hill’s Pet Nutrition)が利用可能である。
※補足:Hill’s(ヒルズ)の甲状腺ケア用の y/d フードは日本でも購入可能。猫缶タイプもある。
期待される効果
- 食事療法が成功した場合、75%の猫が食事療法開始後28日以内にT4値を著しく低下させ、臨床症状も改善される。
- T4値の上昇がひどい猫では、正常化には180日ほどかかることがあり、中には甲状腺機能正常化に至らない猫もいる。
- 過去の研究では、1年間で甲状腺機能亢進症の猫の83%が食事療法で寛解した。
- ヨウ素制限食には嗜好性の低さという課題がある。
- 下記のような場合には、食事管理が困難または禁忌となる場合がある。
- 多頭飼育されている猫。
- 他の栄養管理を必要とする疾患を併発しており、ヨウ素を含む医薬品またはサプリメントを服用している猫。
- インドア・アウトドアの猫。
- ヨウ素を制限した食事(0.17ppm)を1年間与えた猫には欠乏症状が見られなかった。
- 甲状腺機能亢進症の猫にヨウ素制限食を長期的に与え続けた場合の結果は不明である。
甲状腺機能亢進症の猫の予後について
- 昔の研究では、診断後の生存期間は2年と報告されていたが、最近のデータでは、CKD(慢性腎臓病)を併発していない猫の生存期間の中央値は5.3年に達している。
- 未治療の甲状腺機能亢進症は進行性の疾患であり、重大な罹患率と死亡率につながる可能性がある。
- 甲状腺機能亢進症の猫は、適切に管理されれば、しばしば長期にわたって生きることができるようになった。
- よく管理された甲状腺機能亢進症の猫の罹患率と死亡率は、甲状腺機能亢進症そのものよりも、併存する疾患の存在と重症度に強く影響される。
- 甲状腺癌に続発する甲状腺機能亢進症は、腫瘍の病理学的特徴から、過形成や腺腫よりも予後がやや劣る。しかし、適切な治療により、甲状腺癌の猫でさえ、甲状腺腫瘍の影響よりも甲状腺以外の病気で死亡することが多い。
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